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何回だって声を枯らして――TEAM SHACHI声出し解禁レポート


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コロナ禍になって、アイドルは厳しい規制のもと、長いトンネルを小さな灯りで照らしながら進むように、歩んできた。

ライブすらしてはいけなかった頃もあった。そこから徐々に、お客さんを入れてライブをしてもよくなり、パーテーションを置いたりマスクを着用することで対面の特典会が許されたり、オールスタンディングでのライブをしても良くなったり。

概ね一年前くらいから、ライブシーンはかつての姿を取り戻しつつあるように思う。それでも足りなかったのが「声」だった。

時は流れ2023年。世間では、マスクの着用を任意とする議論が始まるなか、エンタメ業界に於いては長らく封じられてきた「声出し」が、大きなライブでもできるようになった。

これに伴い、2023年3月1日にZepp横浜で行われた「dot yell fes 2周年SP DAY2」に於いて、TEAM SHACHIは3年の沈黙を破ることになった。

これはタフ民――TEAM SHACHIのファンとして、3年の沈黙を破ることになったわたしに何が起きたかを綴る記録である。

 

15時ちょうど。開演時間にはすでにTEAM SHACHIのグッズに身を包んだタフ民がチラホラと見える。同じ事務所の、ukkaのファンもいた。

久しぶりの声出しにいささかの不安と緊張をいだきながら、16時きっかりにフェスは始まった。

TEAM SHACHIの出番前にはコロナ禍でデビューしたアイドルたちも何組かいた。声出し可といえど、オケの音が強かったこともあり、まだ産声を上げ始めたばかり、という印象が強い。ちらほら歓声が聞こえるものの、大きな名前コールはまだ起きていなかった。

その静けさを破ったのはTEAM SHACHIの出番2つ前のukkaだった。

リンドバーグ」の名前コール、特にパート割変更により巻き起こった葵るり、結城りなへのコールで一気に会場が色めき立つ。スイッチが入った、と思った。そこかしこから、名前を教えるかのようなコールが飛んでいる。音が、声が世界に溢れた、そんな感覚に陥る。

その後の≒JOYの勢いも素晴らしかった。声援を聞くのが初めて、というメンバーの言葉に面食らったほどに、熱狂が生まれていた。

そんな温まりきったフロアに、TEAM SHACHIのステージは用意された。

overture〜orca〜が流れ、歓声が聞こえた。誰かがメンバーの名前を呼ぶと、また他の誰かが名前を呼ぶ。3年分の想いが、タフ民の体から喉を伝って流れ、フロアに充満していく。フロアの温度も、少しずつ上がっていったように思う。

メンバーが入ってくる。歓声が止まない。メンバーは、これ以上ないくらい嬉しそうな顔。

そして、間。

それを破ったのは「start」のイントロだった。その瞬間、この3年間たまりにたまった歓声が、私の喉をぶち壊す勢いで流れ出たのを覚えている。意識したのではない、感情が声になって溢れた。この3年間、ペンライトを振る力に置き換えてなんとか流してきたこの激情が、ただひたすらに喉を震わせている。

涙が出そうだった、でも、必死で叫んでいたら涙なんて出なかった。頭の中を、楽しいと嬉しいが洪水のように駆け巡る。血が踊る。アドレナリンが噴出する。

周りからも声が聞こえる。咲良菜緒は、「声出せェーーーーーーー!」と叫んだ。ライブもできるようになって、あとは声だけだね、と折に触れて語ってきた彼女の中で、何かが弾けた音を聞いたような、そんな気分になる。

フロアもそれに呼応した。信じられないくらいの熱がZepp横浜に充満する。声出しはstartがいいな、なんて声が多かったことを、思い出した。

メンバーは嬉しそうに、時折イヤモニを外してタフ民の声を聞いていた。熱気渦巻く声を聞いて、更に強く強く感情を叩きつけるように彼女たちは歌った。

声を封じられてこの数年。声なんて出さなくてもライブは楽しい、と思っていた。それは間違いなく、コロナ禍でしか見えなかったもの、得られなかったものがメンバーにもオタクにしてもあるだろう。

しかし、このstartで、ようやく「僕とキミの明日が始まる」のだと、そう確信した。声を出して、タフ民とメンバーが一つになるこの感覚。酸欠で頭がくらくらして、わけがわからなくなった瞬間にすべての感情が削ぎ落とされて見える絶頂にも似た「楽しい」。これをなくして、私はどう生きていたのだろう。

魂が震えるようなパフォーマンスが終わった。歓声をききながら、肩で息をする。一息ついて、推しの名前を叫ぶ。まだ、一曲めだ。

間髪入れず披露された「東海コンプライアンス」ではダンスで身体を酷使し、また、肩で息をする。

MCでは、ひとりひとりメンバーが自己紹介をした。コロナ禍では、たとえば咲良菜緒であれば、「心の中とクラップで、なおちゃーんって呼んでください。」と観客には語りかけていたが、やっとこの名前を呼べる。

なおちゃーん!ほのかー!ハルー!ゆずきー!この声をイヤモニを外して聞いたメンバーは、これ以上ないくらいに笑っていた。

そしてライブはまだ続く。コロナ禍でリリースされ、初めての声出しを経験する「舞頂破」。「なんまいだー!」と念仏を叫ぶ。「長きにわたり待ち望んだ時が来た、皆騒げ!宴の始まりじゃ!」と、今まさにこの場のためにあるようなセリフが放たれる。まだまだ、宴は終わらない。

TEAM SHACHIが大切にしてきたライブアンセムである「抱きしめてアンセム」。また踊り狂って体力が削られる。それと反比例して、アドレナリンのがどぱどぱと流れていくのを感じた。気力と熱狂だけで声を上げ、腕を振り、踊っているそんな感覚が体に満ちていく。坂本遥奈のラップパートのコールアンドレスポンスのボルテージは最高潮に達したように思えた。

「やまない声があるからいつまでも踊ってたい」大黒柚姫が叫んだ。おあつらえ向きの歌詞だ。いつまでも踊ってくれるなら、声が枯れても叫び続けるのに。

更に息が上がって、ほとんど口をつけていなかったペットボトルの中身が空になった。体温は、1度くらい違う気がする。額から汗が伝って流れた。

会場に雷鳴のごとく響くギターの音色。考えるより先に声が出ていた。「雨天決行」。ああ、この子達は、私達にとどめを刺しに来ている。声を枯らせと、騒げと、音楽を通して訴えかけている。

その後の記憶は、ほぼない。「エルオーブイイーラブリーなおちゃん」と、曲調に似つかわしくないコールを叫んだことはおぼろげに覚えている。気づいたら音が消えていて、歓声をただただあげていた。

時間にして25分。ジェットコースターのように目まぐるしく、しかし濃密で、そして現実離れするくらいに充実した時間だった。間違いなく、歴史的瞬間だったろう。

 

素晴らしいライブだった。観客とステージが渾然一体となり、濁流にも思えるほどの激しく混沌としたうねりを作る。TEAM SHACHIの目指さんとする「はちゃめちゃ」の波に飲み込まれ、従うしかなかった。それが、今なお漣のように体に押し寄せてくる。

しかし、これは始まりに過ぎない。

本格的なワンマンライブでの声出し解禁は、7月22日、名古屋城だ。この日の何倍もの尺で、声援が響くのだ。

始まりの地で、また新たなスタートを切るTEAM SHACHIのライブは、きっと伝説に残るだろう。