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笑う門には何が来る?ーーTEAM SHACHIフルアルバム「笑う門には服着る」全曲レビュー

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「笑う門には服着る」は、TEAM SHACHIがプライベートレーベルとなり完全なセルフプロデュースで歩みだした記念すべき一作目のアルバムである。

この作品は「愛」と「未来」 を軸にTEAM SHACHIらしく様々な一面が垣間見えるものとなった。

アルバムが発売となった記念に、一曲ずつレビューをしていこうと思う。

 

 

voyage

ワクワクレコーズ初のフルアルバムにふさわしい、未来への明るい期待とワクワクがサウンドにも歌詞にも詰まった一曲。ツアーにおいても1曲目に配置され、新たなスタートラインから未来を望む視線の作品だ。

ストリングスや鐘の音が「明るい未来」を予感させ、これにとびきり瑞々しいメンバーのボーカルが、美しくコーラスワークと共に乗ってキラキラ眩しく光っているようにすら感じる。

「あなたと見た未来」と、語りかけるような歌詞を聞けば、彼女たちと一緒に一歩踏み出したくなる、そんな曲だ。

 

おとなりさん

世界一かわいい楽曲をつくる人ことヤマモトショウとの初タッグ。ヤマモトショウは静岡県出身で、愛知県の「おとなりさん」に当たるという遊び心も。

初めて聞いた時、バリバリのヤマモトショウだ!と思った。流れるようなピアノが美しく、可愛さとは正反対のイメージのギターを抱えてなお「全力のかわいい」なのが恐れ入る。

FRUITS ZIPPER「わたしのいちばんかわいいところ」にイメージが近いと評される事が多いが、むしろヤマモトショウがプロデューサーを務める静岡のアイドルfishbowlの楽曲に登場する要素が強い、と私は感じているのは私がfishbowlを聴きまくっているからだろうか。

そんな背景も含み、「東海地区」という大きなくくりとして中のローカル感を強く感じる一作。「なんだかぜんぶがほんとになっていいじゃんね」の「じゃんね」も、このタッグでなかったら出てこなかった歌詞なのではないだろうか。

 

愛のニルバーナ

所謂「沸き曲」ど直球、2010年代ライブアイドルど真ん中みたいな打ち込みバリバリ、BPMは鬼の速さのド直球浅野曲だ。

ファーストインプレッションは「2010年代ライブアイドル」だった。早いBPMに置いてきぼりになりそうなくらいの激しい展開と当時から「お約束」として鎮座した「コールを入れる余白」があり、一発でライブで盛り上がるだろうな、と想像ができる。

「ピーニャカピーニャ」と蛇使いの笛をイメージするような擬音が歌詞に起こされていたり「ハッピーラッキー愛のニルバーナ」「見通しなんて甘々」と若干頭が悪そう(褒めている)なくらいわかりやすく明るく、音も楽しい単語たちで埋め尽くされている。2023年のシャチサマで大黒柚姫の口から飛び出した「一福去ってまた一福」が歌詞にしっかり入っているところも、浅野尚志からの愛を感じるポイントだ。

ただし、この曲は単に「あの頃」として10年前のアイドルシーンを懐古させるものでなたい。その証左が「行き先なんてノープラン ティーンの魂100まで続け」いう歌詞だろう。

これは懐古に見えてカウンターなのではないかとすら思う。これを今年13年目のアイドルが歌うことの勇気とここまで続けてきたからこその説得力、覚悟を感じてほしい。10年前のアイドルバブルといえばチームしゃちほこが乗りに乗っていた頃で、その頃彼女らは10代だった。

そんな彼女たちが最後には「次の未来へ お先ィ!!!!」とあっけらかんと歌うのだ。くるりと舞うポニーテールが見え、彼女たちが走っていくその先、明るい未来を想像せずにはいられない。

 

沸き曲

「愛のニルバーナ」を2010年代のライブアイドルにおける「沸き曲」と評した。

カンカンカンカン!!みんな起きてーーー!!これが令和の「沸き曲」だーーー!!!!と言わんばかりの名は体を表した楽曲。

約3分間を凄まじい速度で駆け抜ける。傑作だと思う。

とにかくこの楽曲が作る高揚感がすごい。音で人間は高揚感を得られるのだ。

イントロから歌い出しの「セイ!」までのぐっと駆け上る感覚と、初手サビの令和スタンダードなキャッチーさに加えて擬音を多用した歌詞に否応なしに体が反応する。そのサビも同じメロディの2回繰り返しに続き、耳馴染みのいいPPPHのリズムで同じメロディを2度繰り返し→締めと所見にもわかりやすく耳に残る。短くシンプルなメロディの組み合わせの中にラップパートやクイズまで入りとにかくギュウギュウ詰めであっという間に曲が終わっている。

たったの3分だが、さまざまな盛り上がりどころとことんつめたことが功を奏し、瞬間湯沸かし器のようにフロアが沸くTEAM SHACHIの新たなライブアンセムとなった。

 

FANTASTIC MIRAI

ベースのイントロから始まる重低音を効かせたバンドサウンドで、このアルバムの中で一番「ラウド」に寄った楽曲だろう。

サウンドも歌詞も少年漫画のような熱さを感じ、「高まり」にコミットしているとすら思わせるほどの激しい展開は王道アニソンを想起させる。分かる人にだけわかってほしいが、最終話の最終戦闘でかかってほしい1期のOP感がある。特にラスサビに向けて半音下がりからの上がっていく展開には脳が溶ける。こうして高揚感は作られるのだ、と納得した。

「愛のニルバーナ」で軽妙に歌われた彼女たちの「未来」が、ここでは重厚に響いている。「人生全てを捧げる覚悟」「創造なさい

FANTASTIC MIRAI」等、泥臭い言葉を轟音に乗せられたら彼女たちから目が離せなくなるだろう。

軽妙に歌われる「未来」も、覚悟を持って歌われる「未来」も、どちらもTEAM SHACHIの楽曲としての納得性があるのは彼女たちがファンに見せ続けてきた様々な顔があるからだろう。ときにあっけらかんと、時に泥臭くやってきたことを知っているから、この重厚なサウンドと歌詞がハマるのだ。

 

舞頂破

FANTASTIC MIRAIの重低音を引き継ぐ配置にこの楽曲を置いたことが素晴らしい。

愛のニルバーナから舞頂破までの流れがそのままライブのセットリストにできそうだ。

「FANTASTIC MIRAI」からバトンを引き継いで「最後の瞬間まで燃え尽きる覚悟」を歌うことで彼女たちの覚悟がより強固になるように感じられる。

「私達はいつも変わらないでここにいる」というメッセージも、彼女たちが折に触れて伝えてきた「誰もおいていかない」という哲学に通ずるものがある。未来を語る楽曲群の流れの中に、舞頂破が置かれた意味は大きいだろう。

 

勲章

飾らないシンプルな言葉選びと、熱情を絞り出すかのように歌うボーカルが心を打つ名曲だ。サビで鳴らされるスネアに感情を掻き立てられる。

「勲章」のよさは何と言っても飾らない、感情をそのままぶつけるような剥き出しの歌唱だろう。

「だから何度失敗を繰り返しても」と歌詞にあるように、決して綺麗ではなかった彼女たちが歩んできた道を、敢えて感情を優先させた歌唱で表現したことで、より心にダイレクトに響き、感情の昂りを呼ぶ。

秋本帆華の落ちサビはこれまでにないほど粗削りで強く、まるで彼女の感情が裸のまま放り出されているようにすら感じられる。綺麗に整えることを優先される「音源」という形でありながらTEAM SHACHIのグループとしての肌触りのようなものがしっかりと手にとってわかる、そんな作品だと思う。

 

NEO首都移転計画

「首都移転計画」から10年、同じくSEAMO提供で新たに首都移転を企てる曲。

ライブハウスの大音響で重低音低めで聴きたい、いわゆる沸きとは違った高揚感があり、ライブハウスで聞くたびにもっとだ、もっと音の治安を悪くしてくれ!と願ってしまう。

しかし、メンバーの様座に変わる声色やコミカルな歌詞がなかなかにTEAM SHACHIナイズと呼べばよいのか、ちょうどよく決めすぎない抜け感がある。それゆえ、親しみやすい楽曲にもなっているとも言えるかもしれない。

 

江戸女

かなりトリッキーなこの曲が突然ポン、とアルバムの中に放り込まれて異彩を放っている。曲順からみると「首都を移転する」と豪語したわりに「江戸の女に生まれたかった」となかなか高低差もパンチもある並びだ。

楽曲面でもブラストバンドサウンドがかなり表に出てきていて、そういった意味でもアルバムの中で強い存在感のある楽曲だ。

ブラスの音色を借りながらかなり艶っぽさを放っているこの曲、TEAM SHACHIの中では新境地なのではないだろうか。セリフの多用、クラッシックめいたピアノのメロディ、ライブの中でもバチッとハマる位置に置けばシーンを変える良いスイッチとしてとしても働いてくれる。TEAM SHACHIの飛び道具的な武器のひとつだ。

 

縁爛

縁爛のブラスの音色を聞けば、江戸女の位置に納得がいく。和楽器とブラスで艶やかなイメージが強く、どこか妖艶な祭の空気を感じることができる。

TEAM SHACHIと祭、というキーワードを並べた時に想像するのは賑やかに騒ぐ祭だが、ここで表現されたのは「穢れを祓うための儀式としての祭」だ。コロナ禍を暗喩する歌詞のなかで「穢も憂いもどうぞどうぞ通りゃんせ」と軽やかに歌い踊ることでその穢れを祓う、そんなイメージが沸いてくる。

プライベートレコードが発足後も、こうしてブラス民の演奏をメインにした楽曲が存在することがなにより嬉しい楽曲でもある。

 

だれかのために生きる今日を

バンドセットで奏でられるごくシンプルな音作り、シンプルなメロディとやや緩やかなテンポにメンバーのボーカルが映え、歌詞がするりと入ってくる楽曲だ。

この曲は日常に寄り添うイメージが強い。「暮らしの中」という歌詞があるのもそうだが、耳に優しく馴染むサウンドがそう感じさせるのかもしれない。

TEAM SHACHIの楽曲はどちらかといえば音数が多かったり、転調が何度もあったりライブに映えるような「ハレ」のイメージのものが多いが、「だれかのために生きる今日を」は、シンプルな音とメロディ、展開でありテンポもやや緩く、日々の暮らしの中で聴きやすい。

そんな暮らしに寄り添うサウンドで、「愛はここに」と歌われる喜びはこの上ない。

そしてどうしても、「誰かのために生きる」の意味を「一人の人間がアイドルとして生きること」と解釈して聴いてしまう。そのうえで「私のために生きる今日だった」を噛みしめると、私がアイドルを追う上で一番見ていきたい「アイドルを演じる中で自己実現していく姿」なのではないかと思ってしまうのだ。

だれかのために頑張ることが自分のモチベーションになる、と言ってしまえばそこまで特別ではないのかもしれないが、誰かを思って自分を鼓舞することが「暮らしの中にある、捨てられない愛」と地続きであって、私が愛した人がこれを歌っていることを思うと、心がじんわりと暖かくなる。そんな温かさを求めてつい再生ボタンを押してしまう、大好きな曲になった。

このライブを引っ提げたツアーで、夢を叶えるその時まで、この会場にいるみんなにはそばにいてほしい、と言われたことを思い出す。再生ボタンを押すたび、そんな彼女たちがそばにいてくれて、私もそばにいられるようなそんな感覚になる。あなたと私の間に、たくさんの愛を積み重ねていきたい。これからもずっと。