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何度失敗を繰り返しても――SHACHI SUMMER2023 名古屋城~叫べ!夢と希望の銃弾を放つ夜~レポ


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2023年7月22日、TEAM SHACHIは夏の大型ライブ「SHACHI SUMMER2023 名古屋城~叫べ!夢と希望の銃弾を放つ夜~」を開催した。

コロナ禍を経て、大型ワンマンで初めてのマスクなし声出し可。会場は前身グループ「チームしゃちほこ」のデビューの地でもある名古屋城

歴史に残るライブになることは開催前からわかっていた。これは、そんなライブの記録。

 

 

皆騒ゲ宴ノ始マリジャ

18時少し前。名古屋城天守閣をバックにステージセットが組まれた名古屋城二の丸広場。開演を待つタフ民は、頬や鼻を少し赤くして期待に満ちた表情を浮かべていた。

会場前方に設置したビジョンには、メンバーによる物販紹介や寿がきや食品「小さなおうどん」の紹介などが流れる。これだよ、大箱は。

さわさわと期待に満ちたざわめきを聞きながら、時間がすぎるのを待つ。18時。静寂、のち、それを破ったのはBlur「song2」だった。

「woo-hoo!」と、タフ民の期待に満ちた声が溢れ出した。かつて、チームしゃちほこのライブの始まりだった音。これは、一発目は名古屋城を指差しながら「恋人はスナイパー」か!と期待した。確信に、口元がどんどんと緩んでいく。

song2が終わり、「OVERTURE~ORCA~ 」が流れる。TEAM SHACHIのライブの始まりを告げる曲。伸びやかなブラスの音色、ああ、これは生音だ、ブラス民がいる!とさらに高揚感が高まる。

「OVERTURE~ORCA~」が終わると、ビジョンにバンで移動するブラス民の映像が。目指すのは名古屋城。バンは名古屋城に到着、ブラス民は車を降りていく――仮面を外して。

シートに置かれた金と黒の画面が、大写しになる。そして即座に「ブラス民」「MOS」の文字に切り替わった。

SNSの総フォロワー数が100万人を超えるブラスとダンスの融合パフォーマンス「ブラダン」を世界に届け続けているMOS。これまで、ブラス民の「お友達」としてたびたび紹介されることがあった彼女たちが、ついにその仮面を脱いで正体を明らかにした。

衝撃、を受けている間もなく怪しげなサウンドと突き刺さるギターの轟音が会場を揺らした「舞頂破」から、ライブがスタートしたのだ。MOS=ブラス民の衝撃や、スナイパーじゃなかった!!という気持ちが頭を振ったら全てが吹っ飛んで、楽しい!だけに支配される。

咲良菜緒秋本帆華は叫んだ。

長キニ渡リ待チ望ンダ時ガ来タ

皆騒ゲ宴ノ始マリジャ

そうだ、声を出して思いっきりはしゃげるライブをずっとずっと待っていた。この上のない喜びが身体に満ちていく。

「舞頂破」のアウトロで、ブラス民ことMOSが華々しくパフォーマンスに合流した。

かつて、「舞頂破」における「ラウド・ポップ・ブラス」について考察したことがあるが、「舞頂破」の使い所はここか、と膝を打った。

TEAM SHACHIの4人のパフォーマンスに、ブラス民ことMOSの4人が華麗に合流する。今日この1曲目のためにあるような選曲だった。

 

叫べば僕らきっとちょっと強くなる

ライブ中盤、「Wow!Oh!Oh!」が披露された。イントロがかかった瞬間によくわからない声が出たのを覚えている。

というのも、私は声出し可の記念碑的なライブでこの曲を聴きたい、と思っていたからだ。

リリース当時、この曲が不可抗力によるメンバーの卒業を前にしたメンバーが奮起するような曲に聞こえていた。これが、人類を襲った世界規模の疫病の流行から立ち直る曲に聞こえる日がくるとは思っていなかった。

Wow Oh! Oh! (Oh!Oh!)

叫べば僕ら きっとちょっと強くなる

遠吠え? 気にするな 少しなら 泣いていい

Wow Oh! Oh! (Oh! Oh!)

叫んで僕らもっとずっと強くなる

君がいるからだから今しか歌えない歌 歌おう

「僕はここにいるよ。」

声出しが封じられてから、あとはタフ民の声だけ、と何度メンバーの口から聞いてきたことだろう。

TEAM SHACHIの魅力はメンバーの熱いパフォーマンスとタフ民が生み出す熱狂のシナジーだ。タフ民の声は、TEAM SHACHIのライブの熱狂をさらに強化する。

「Wow!Oh!Oh!」に「Oh!Oh!」とリフレインを返しながら、「僕ら」とはTEAM SHACHIとタフ民のことだ、と思った。

「僕はここにいるよ」、TEAM SHACHIはコロナ禍も耐えて生き抜いた。いまこのステージに立っていることはあたりまえではなく、奇跡だ。

 

見て!あれは、金ピカに光る――

ライブも後半。「夢と希望の銃弾を放つ夜」と銘打たれたライブで、「恋人はスナイパー」がどこで披露されるのか。熱狂に身を任せながらそのことが気にかかっていた。

センターステージで、ふと秋本帆華がメインステージ上手側奥、ライトアップされた名古屋城の方向に向き直る。

間があった。ざわざわ、とタフ民たちが色めき立つ。

そして秋本帆華は、すっ、と名古屋城天守閣の金の鯱を指差す。

デビュー以降、頭に載せてきたしゃちほこ。それは今も、「From NAGOYA」の精神として胸にある。

時は満ちた、そう確信するまでのたっぷりの長い間を持っていよいよ秋本帆華が口を開く。

「見てー!あれは金ピカに光る私達のシンボル、しゃちほこよー!!」

ブラスの華やかな音色に包まれて、より金ピカに輝く「恋人はスナイパー」。私が初めてチームしゃちほこを見たのは、10年前のここだった。そんなに時間が経っても今ここにいる奇跡。それを感じずにはいられない。

数多のライブで披露され、踊って声を出してきた「恋人はスナイパー」。前回の披露は1年ちょっと前、10周年ライブだっただろうか。あのときは声を出せなかった。秋本帆華の「見てー!」に沸きこそすれ、それが声になるのをぐっと飲み込んだ。

もうそれを、飲み込まなくて良い。それが幸福だった。これから、タフ民の声援を武器にさらに彩りあるライブが繰り広げられるのだろう。

始まりの地で、あたらめてスタートを切った、そんな意味があった「恋人はスナイパー」だと思った。

 

 

上出来じゃ物足りない、まだ足りない

アンコールラスト一曲の前、秋本帆華は改めて「もう一度ワンマンで武道館を満員にしたい」と語った。

この言葉を口にするということは、自分たちがかつての勢いをなくしていること、武道館の満員まではまだまだ手が届かないことを認めることだ。どんなに、勇気がいるだろうか。

届かない目標に手を伸ばし続ける人を笑う人が世の中にはいる。絶対無理だと諦めることのほうが簡単だ。

秋本帆華が一瞬の「ため」を持ってこの言葉をつむぐ姿は、覚悟のように私には見えた。

まだ、彼女たちは諦めてなんかいない。ここで絶対満足なんかしない。真っ直ぐな言葉と瞳が、とーん、と私の胸に突き刺さって、すっと落ちていく。

そうして歌われた「勲章」は、今この時の彼女たちのために存在していた曲のように思えた。

なにもわからないなか全速力で走って、何度も転んで傷だらけになりながらの11年。

積み上げたものはたくさんある。今すぐに武道館に立ったら、あの大きなステージをものにできるだけの実力があることを私は知っている。

かつて、武道館のステージに初めて立ったとき、秋本帆華はこう言った。

「ふにゃふにゃなセンターですけど、私についてきてください」

今はどうだ。「勲章」の大切なパートを歌い上げる彼女の歌声はまっすぐで強い。

あの時から彼女にずっとついてきたけれど、こんな姿が見られるとは思っていなかった。

いま、ステージの上に立つ彼女は、しっかりと両足でステージを踏み、まっすぐに客席を見ている。

君のこと、ずっと見ているから、いつかまた、私の姿なんて見えないくらい大きなステージであなたの姿を見たい。少し遠くに見える彼女を見つめながら、そう思った。

 

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